徳川義親公著「じゃがたら紀行」
Marquis Tokugawa, Journeys to Java, ITB Press 2004(英訳版)
ウェブ版への序
徳川義親公の「じゃがたら紀行」の英訳
Journeys to Java
は,Travels around Java in 1920s
の書名で印刷され,1996年および2000年にインドネシア高分子協会主催のもとバンドン/ボゴールで開催された第1回および第2回グリーンポリマーに関する国際ワークショップへの参加者に配られた私本の原稿を全面的に改訂して,私の退職後間もなくの2004年に
ITB Press
(バンドン工科大学プレス)から出版されました。同書はまた私の若い友人によってインドネシア語に再訳され,2006年に Perdjalanan
moenoedjoe Djawa の名で同プレスから刊行されました。
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本を手にした人たちからはこの翻訳を評価し,斯様な楽しい旅行記が存在したことを初めて知った,著者の人となりに魅かれたといった感想を頂戴しましたが,この学術出版社の販路はインドネシア国内に限られ,同書は世界的にはあまり読まれませんでした。実のところ,私は,巷に義親公のジャワ行の目的に誤解が存在したことを最近知って,唖然とさせられました。The
Jakarta Post 紙上に載った拙著
Java Essayへの書評の中に曰く,「トシ[井口正俊]は徳川公を『植物学者および歴史学者として教育を受けた開明な日本の貴族』と述べている。戦前の他の日本からの旅行者がそうしたように,彼がオランダの軍事力を探っていたかも知れないという可能性があるが,トシは全く否定的に考えている。」
出版界を取り巻く環境は過去10年の間に劇的に変化しました。本書の再刊には,POD(プリント・オン・デマンド)や電子出版も選択肢にありましたが,尾張徳川家の現当主であられる徳川義崇氏は,私のウェブサイトに載せるのがベストであろうと仰せられました。
斯くして,ITB
Press版の原稿が,htmlフォーマットに組替えられました。
付加えるべき悲しいニュースは,尾張徳川家の前当主・徳川義宣公が2005年に71歳で他界されたことであります。彼は御祖父の書の翻訳をする私を激励援助して下さいました。もう一つの驚天動地の出来事は,徳川美術館倉庫の片隅で多数の古い16mmシネフィルムが発見されたことでありました。それらは義親公のもので,中に「じゃがたら行」に記された様々な情景を撮影した3巻が含まれていました。これらのフィルムの存在は,故義宣公も触れられたことがありませんから,彼自身も御存知なかったに相違なく,50年以上も忘れ去られていたことになります。古い時代の蘭領東インドの動画記録として計り知れない価値を持つこれらのフィルムは将来公開される運びとなりましょう。
2015年7月
井口正俊