8. アルジュナウィワハ

 

11世紀初めに東ジャワに王国を再興したアイルランガは国土の整備や臣民の福利のみならず芸術文化にも意を用いました。マハーバーラタのジャワ語訳は岳父ダルマワングサの御代になされたとされますが,アイルランガ治世の1035年,数多のカカウィンの中でも最も美しいものの一つとされる「アルジュナウィワハ(アルジュナの結婚)」が詩人ムプ・カンワによって著されました。話の粗筋[1]は,極く簡単にいえば次のようなことです。

 

    「天界を破壊すると脅迫するダイタンの魔王ニワタカワチャの征伐を命ぜられた勇者アルジュナが,サトリア(武士)[2]としての任務を果たすべく,ニワタカワチャの焦がれるニンフ,スプラバの助けを借りてニワタカワチャの弱点(舌先)を聞き出し,天界に攻めてきた相手を激戦ののちに討った。アルジュナは天界で王に任ぜられ,7月間(地上では7日間),スプラバ以下7人のニンフと悦楽の時を過し,惜しまれながら地上に戻った。」

 

    その中には,隠遁して修行に励むアルジュナの志操を試すべく天界から遣わされたニンフが彼を誘惑に晒す場面,ニワタカワチャが遣わした巨人ムルカが化けた野猪を,アルジュナと,狩をする王に化けたシヴァ神が同時に弓で射て,両者が手柄を主張して格闘する場面などがあって,読む者を楽しませます。この物語はアイルランガの生涯をマハーバーラタの一部分に重ねた彼のための賛歌であるといわれています[3]

 

 

バリのタビング(布絵画)に描かれたアルジュナ・ウィワハの一場面。アルジュナが複数のニンフに魅惑されている。オーストラリア博物館蔵。複写元:  http://artquill.blogspot.com/2015/09/balinese-paintings-tabing-part-iii.html

 

 


[1] Claire Holt, Art in Indonesia: continuities and change, Cornell University Press 1967

[2] ヒンヅーの第2カースト。

[3] ムプ・カンワ(Mpu Kanwa)は,この詩文を次のように結んでいる。「ここに完結したのは,その名をアルジュナウィワハという物語の記述である。ムプ・カンワが詩というものを作って公にしたのは,これが最初である。彼は,王の戦に同伴するのに,一抹の不安があった。尊敬すべきは,王国の規模を倍増せしめ,この作品の認めたアイルランガ陛下である。」(注1)