13. ガルーダ神話

 

神鳥ガルーダの由来は「マハーバーラタ」の序章,「アディパルワ」に書かれていますが,原典(英語訳)は,古い時代の文学に間々見られるように文脈が錯綜していて,筆者には極めて難解でありました。話の概要は多くの書物や記事に書かれていますが,参照した2,3の書では大切な記述が省略されているため理解困難な部分がありました。入手した中にコミック書 Anant Pai, Amar Chitra Katha Comics: Garuda , Amar Chitra Katha 1980 があって,比較的分り易いと思いましたが,書の性格上抄録するのは無理であります。

    以下の稿は,Swami Parmeshwaranand(Ed),Encyclopaedic Dictionary of Puranas, ol.1, Sarup & Sons,  2001, page 569-576 の「ガルーダ:鳥の王」に準拠して書下しました。

 

    カスヤパは2人の妻ヴィナタとカドゥルの奉仕を喜び,どんな賜物を欲するかを問うた。カドゥルは子供として1000匹の蛇を,ヴィナタはカドゥルの1000の息子より強くて勇ましい2人の息子を望んだ。それを聞き入れるとカスヤパは森に去った。

    暫くしてカルドゥは1000個の,ヴィナタは2個の卵を産み,それぞれ暖かい壺に保存した。500年目にカドゥルの卵から,様々な種類の1000匹の蛇が殻を破って現れた。ヴィナタの卵は孵化しなかったので,彼女が1個の卵を密かに割ってみると,未熟の子アルナが出現し,彼女が時を待たず卵を割ったことに怒り,彼女はカドゥルの奴隷になるであろう,然し更に500年後にもう一個の卵から異常な力と勇気を持つ男児が誕生し,彼女を束縛から解放するであろうと曰うた。母にこのように告げると,アルナ(Aruna)は空に上り,太陽の馭者となった。[Adi Parva, Chapter 16].

    事実500年後,ヴィナタの2個目の卵から眩い光を放つガルーダが誕生し空に舞上った。その光輝に眩んだ神々に,アグニデヴァ(Agnideva [火の神])は自分と同様に輝くガルーダが誕生したと教えた。神々がガルーダに能うる限りの祝福を浴びせると,ガルーダは自らが放つ光を抑えて母のもとに戻った。[Adi Parva, Chapter 23].

    ガルーダの誕生前,インドラ神はミルクの大海を搔き混ぜ,神馬ウッチャイースラーヴァス(Uchchaihshravas)を得た。カドゥルとヴィナタは馬の尻毛の色について論争,それぞれ,黒色,白色に賭け,勝者が敗者を奴隷とすることで合意した。[陰険な]カドゥルが,蛇である息子たちを馬の尾に取り付かせたので,尾は黒く見えて,カドゥルが勝利した。ガルーダが生れたのはこの頃で,彼は母がカドゥルの奴隷として働く姿に心を痛めた。

    或るとき,カドゥルと息子の蛇たちは,彼らを大海の中の蛇の島ラマニヤカ(Ramaniyaka)へ運ぶようヴィナタに命じた。カドゥルはヴィナタを背負い,ガルーダは蛇たちを背に乗せて出発したが,ガルーダは命に背いて太陽の軌道に上った。蛇どもは熱にうたれて気絶したが,カドゥルの要請によってインドラが雨を降らせたので,意識を取戻した。斯くして一同はラマニヤカ島に着いた。

    或る日,カドゥルにヴィナタを隷属から解放つための代償に何を欲するかを問うと,カドゥルはデヴァロカ(Devaloka[神界])にあるアムリタ(Amrita[命の水])であると答えた。

    ガルーダはアムリタを求めて神界に赴くことを決意し,それを母のヴィナタに告げた。神界へ行くまでの食料として,母は道中でニサダラヤ(Nisadalaya)に棲むニサダ(Nisada[蠻族])を喰うよう,但しブラーミン(brahmin)が居たら気を付けるよう,喰おうとすればブラーミンは喉を焦がすからと忠告した。母は,汝の頭はアグニ(Aguni)によって,翼はヴァユ(Vayu)によって,下半身は太陽によって,それ以外の部分はヴァスス(Vasus)によって護られるであろうと告げて出発を祝福した。

    14世界の全てが彼の羽撃きによって震動した。ニサダを食べて,ガルーダは父のカスヤパが修行に励むガンダーマダラ(Gandhamadana)の森に到着した。父は道中の池に棲む宿敵の象と亀を喰うよう告げた。その象と亀は嘗てヴィバーヴァス(Vibhavasu)とスプラティカ(Supratika)の兄弟が互いに呪合って化身させられたのであった。父もガルーダのアムリタを求める旅の成功を祈った。

    ガルーダが象と亀を嘴に銜えて飛立つと,羽撃きによって樹々が薙倒され,休んで食べ物を喰う場所を探し得なかった。大木を見つけて枝に止まると枝が折れたので,ガルーダは枝を攫み,バラキーリアス(Balakhilyas)と呼ばれる修験者たちがその枝にぶらさがったまま,飛行を続け,父カスヤパの居るガンダーマダラ山に戻った。カスヤパが息子の代りにバラキーリアスたちに詫び,ガルーダの任務を説明すると,彼らは喜んでヒマラヤに向けて去った。父の助言を受けたガルーダは人気(ひとけ)のない山の頂に枝を置き,そこで象と亀を食べて,神界へと飛んだ。[Adi Parva, Chapter 29, 30).

    神界ではガルーダの到着前に凶兆が現れた。インドラ神がブラースパティ[祈りと検診の神]に訳を問うと,ブラースパティは神眼でもってガルーダがアムリタを求めて到来することを見抜き,インドラに斯様な運命が降りかかったのはバラキーリアスの祖に呪詛によってであるとインドラに教えた。インドラと他の神々はアムリタの壺を護るべく全ゆる準備を整えた。

    バラキーリアスの怒りならびにガルーダの誕生に関しては経緯があった。嘗てカスヤパが[生まれ来る]息子のためにヤジナ(Yajna[火の儀式])を執行うに当って,インドラと6万人のバラキーリアスに薪集めを頼んだとき,親指ほどの小人であるバラキーリアスが小さな小枝を運ぶのを見て,インドラが嘲笑した。侮辱を受けたバラキーリアスは,別の場所でインドラに向けてヤジナを始めた。インドラがカスヤパに執成しを求めると,バラキーリアスは火の力(yagasakti)をカスヤパに預け,カスヤパのヤジナの結果としてカスヤパにインドラを打負かす息子が生れ来ることを条件に引下がった。斯くしてインドラは暫時バラキーリアスの怒りを免れたのである。ヤジナの後ヴィナタがカスヤパを訪れ,強力な息子を授かるであろうと祝福された。その息子こそガルーダであった。[Adi Parva, Chapter 30].

    ガルーダが聖水の壺に近づいたとき,最初に立向かったヴィスマカルマ(Visvakarma[建築および鍛冶の神])は地面に倒された。ガルーダの羽撃きによる粉塵にインドラも他の神々も,否,太陽も月も視力を失い,全員ガルーダに敗れた。ガルーダが聖水の壺の保管場所に行くと,壺は回転する二つの恐ろしい車輪の中央にあって,車輪の下には巨大な蛇どもが目を光らせ,その口に火のような舌を突出していた。ガルーダは粉塵を巻き上げて蛇どもの目を潰し,嘴で蛇を刺し殺した。彼は全身を小さく化身させて聖水の壺の傍に行き,車輪と機械を毀した。彼は嘴に壺を銜えて空に舞上り,拡げた翼で太陽の光を遮った。ヴィシュヌはガルーダの偉業に喜び,所望の恩恵を問うた。ガルーダはヴィシュヌの乗物になることと,永遠の命を授けられることを望み,これら二つの希望は叶えられた。

    インドラはヴィシュヌのところから帰るガルーダに向けてヴァジラ(Vajra,特別の武器[稲妻])を放ったが,ガルーダは傷つくことなく,一枚の羽根が空に落ちた。その羽根を見た者は全て,ガルーダがスパルナ(Suparna,[神の翼])であると認めて喝采した。インドラは呆気にとられてガルーダの傍にゆき,将来友達になることと,聖水の壺を返してくれることを求めた。ガルーダは蛇が彼の食料となる力を授けられれば聖水の壺を返すと答え,「アムリタを自分のために使うことはなく,カドゥルの奸計によって奴隷となった母を解放する代価として蛇どもに壺を渡すためである,貴殿は蛇のところから壺を持ち去れば良い。自分はそれを邪魔しない。」と告げた。斯くして,インドラとガルーダは友となり,インドラはガルーダが蛇の巣窟に赴くのに従った。

    ガルーダは聖水の壺を蛇に渡し,地面に生えたダルバー草(Darbha grass [別名:クシャ草,イネ科 Desmostachya bipinnata])の上にそれを置いて,アムリタを口にする前に清めのための水浴をするように助言した。[この時点でヴィナタは解放されたと思われる。]蛇が水浴している隙にインドラが壺を持去った。水浴から戻って聖水の壺がないことに気付き,狼狽えた蛇が壺のあった場所のダルバー草を舐めると,蛇の舌は二つに裂けた。この日以来,蛇はこの形となった。

    斯くしてガルーダは母を隷属状態から救済した。[Adi Parva, Chapter 34].

 

 

アムリタの壺を獲得し,勝利の叫びを上げて帰途に着くガルーダ。Anant Pai, Amar Chitra Katha Comics: Garuda , Amar Chitra Katha 1980 より複写。