IV. 伝承と物語

 

1. ジャワ島誕生神話(第5章より)

 

    ジャワの古文書「タントゥ・パンゲララン(Tantu Panggelaran)[1]には下記の神話があります。

 

  「バータラ・グル(シヴァ)はバータリ・パラメスワリ(ドゥルガ)とともにジャワ島を創造し,神々の座所ディヒヤン(ディエン)を設けたが,その島は海上に漂っていた。シヴァは神々に聖なるマハメル山をジャンブディパ(インド)から移してジャワに置き,重石として安定化するよう命じた。ヴィシュヌとブラーマは各々の身体を巨亀と長蛇と化し,前者はスメル山を背負い,後者はそれに綱のように纏った。スメル山がジャワ島の西部に置かれると,島はバランスを失って傾いだ。マハメル山を東方に移す過程で,島は砕けて,途上に6つの山が出来た。それらは,カントン(Kantong),ウィリス(Wilis),カンプット(Kampud),カウィ(Kawi),アルジュナ(Arjuna),クムクス(Kemukus)の6つである。」

 

    マハメル山はスメル山とも呼ばれ,ジャワ島最高峰(3666m)として,現在のマランの東方に存在し,特に,マジャパヒト時代からその地域に住んでシヴァ教を奉るトゥンガル族の人々の間では,今も聖山として崇められています。因みに,スメルはシナの須弥山,日本の妙高山と同義です。スメル山のことを,本来は技術者でありながら,該博な知識を持つ日本史家でもあり,世界中の名山を征服した登山家でもある旧友に話したところ,「スメル」は天皇の古称であるスメラ(皇)に通ずるのであるまいかとの指摘を受けました。彼の説によれば,ヒンヅー教や仏教が誕生する以前の古代インド哲学で「至高の存在」を意味したサンスクリット語のスメルが,有史前の日本に渡来し,天皇に適用されたと考えられる由,傾聴に値すると思いました。

 


[1] “Tantu Panggelaran: Keberadaan Pulau Jawa Pada Zaman Purbakala (Tantu Panggelaran The Creation of Java Island in Ancient Times)” http://id.wikipedia.org/wiki/Pembicaraan:Tantu_Panggelaran