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田舎館村の田んぼアート

  2023年10月15日 脱稿

  2023年10月28日 改訂

  2023年11月23日 改訂

    

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1.田舎館村訪問

 

水田に色の異る稲を植えて絵を表現する - この行事には以前から興味があったが,場所は東京から遥か彼方の青森県の田舎館村,気軽に行けるところではかった。数ヶ月前に北海道への旅行を計画したとき,今年第30回を迎へた田んぼアートのテーマは,私の好きな二人の芸術家の作品,棟方志功の 「門世(もんぜ)の柵」とヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」であることを河北新報の記事[1]で知り,往路に立ち寄ることにした。9月27日,弘前からバスに乗り,弘南鉄道弘南線の田んぼアート駅に着くと,村営の「田んぼアートシャトルワゴン」が待ってゐて,10分で田舎館村役場裏手のメイン会場(田んぼアート第1会場)に着けてくれた。

弘南鉄道弘南線は,その日,レール点検のため運行されていなかった。)

 

 

 

Fig.1 田舎館村役場前景[2]。右は同役場の1/350スケールプラモデル(www.amazon.co.jpで販売),屋上の様子が分る。

 

 

田圃は役場庁舎屋上デッキから観覧できる。訪問者が多い時には1時間以上も行列に並ぶこともあると聞いてゐたが,この日は幸にも空いてゐた。早速撮った一枚が Fig.2 であって,「門世の柵」と「真珠の耳飾りの少女」が見事に描かれてゐた。

 

 

 

Fig.2 村役場屋上デッキから撮った田んぼアートの写真(2023/09/28, Nikon Z6)

 

 

この度撮った写真は8月13日付河北新報掲載のもの(Fig.3)よりかなり粗く,全面に細かな点々が見られるが,理由は稲が既に収穫期に近く,稲穂が実って垂れてゐるためであった。

 

 

 

Fig.3 河北新報(2023年8月13日付)に掲載の写真[3]

 

 

弘前経済新聞[4]に依れば,今年は異常気象のため稲穂の実りが早く,8月になると「門世の柵」の手前部分に見られるやうに雑草が目立ち,9月に除草されることになったと云ふ。Fig.2 の写真では雑草が既に取り除かれてゐることが分る。

 

 

稲田の絵には,青および真紅の色の稲はないものの,目を細めると,原画の濃淡は上手に表現されてゐるやうに見えた。試しに,Fig.3 をグレースケールに変換した画像を Fig.4 に示す。比較のため,「門世の柵」および「真珠の耳飾りの少女」の原画およびそれらのグレースケール化した画像を Fig.5 に示す。

 

 

 

Fig.4 Fig.3 のグレースケール画像。

 

 

       

Fig.5 「門世の柵」[5]および「真珠の耳飾りの少女」[6]の原画およびそれらのグレースケール画像。

 

 

因みに棟方志功作「門世の柵」の"門世”は,画面の四隅に置いた東西南北の文字が世界へ開ける門を意味する棟方の造語であって,"柵”は,フェンスではなく,巡礼者が寺々の詣でて納める廻札のやうなもの,生涯の足跡を意味し,彼の作品には初期の毛筆画を除き,殆どの作品にこの語が付されてゐる。

 

「門世の柵」は別名を「安於母利妃(あおもりひ) の柵」と言ひ,棟方の数ある女人礼讃版画の代表的な一点であって,絵葉書や印刷物にもなった。Fig.6 の写真は,2003年,青森銀行創立60周年,棟方志功生誕100周年を記念して,青森銀行が作成頒布した陶板である。

 

 

   

Fig.6 「門世の柵」の陶板。額の裏面に「創立60周年,青森銀行」の文字(筆者のコレクション)。

 

 

2.田んぼアート

 

2.1 起源

田んぼアートの起源は1993年とのことで,田舎館農協が村産のコメをアピールするため,首都圏の顧客約100人を招いて行った稲作体験ツアーに遡る。発想はと言へば,村の小学校の学校田に色の異る苗が縞模様に植えられてゐたのにヒントを得たと云ふ。然し当時の図柄と言へば,地域の名山・岩木山を図案化した単純なもの(Fig.7)であって,緑,黄および紫色の稲が用いられた。この図柄は2001年まで踏襲されたが,2002年には岩木山に稲穂と月をあしらった「岩木山と月」が描かれた(Fig.8)。因みに絵の下部に配された「稲文化のむら,いなかだて」の文字は,1981年に村の垂柳(たれやなぎ)遺跡で水田遺構が発見され,出土した深鉢形土器,石斧,炭化米などから,本州最北の同地で弥生文化が栄えてゐたといふ歴史的事実[7][8]を象徴する。

 

 

 

Fig.7 岩木山を表した初期の稲田(1993-2001年度)[9]

 

 

 

Fig.8 「岩木山と月」表した稲田,2002年[10]

 

 

2.2 芸術性

2003年になって本格的な絵画の表現が企画され,村在住の美術教師が作製した設計図に従って,レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」が描かれた。Fig.9 に航空写真および村役場屋上デッキから撮られた写真を示す。

 

 

   

Fig.9 レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」の田んぼアート,2003年。航空写真[11]と村役場屋上デッキからの写真[12]

 

 

これは正に,ペルー・ナスカの地上絵[13],イングランド・アフィントンの白馬[14],同・サーン・アバスの巨人[15]などと趣を異にする「地上絵」であって,特徴は,絵が,田植から刈取までの期間に日々変化すること,それが過ぎれば乾いた田圃に戻ることにある。名画の表現は相当なチャレンジであったに相違なく,一見でモナ・リザのイミテーションと分るが,庁舎屋上デッキから眺めたのでは,手前は大きく,遠方は小さく見えて,「下ぶくれのモナ・リザ」と揶揄されたさうである。

 

翌年からは遠近法を勘案した設計図が作成され,その技法は現在まで踏襲されてゐる。稲の種類も,次第に増やされ,現在では10種類7色の稲が用いられてゐるといふ[16]。田んぼアート会場も,2012年からは,村役場後側の第1会場に加えて鉄道沿ひの「弥生の里」に第2会場が設けられ,弘南鉄道の粋な計らひでもって,既存の「田舎館駅」の他に「田んぼアート駅」が開設された。Table 1に見られるやうに,第―会場のテーマは内外の有名絵画や映画,テレビドラマのシーンが殆どである。絵画に棟方志功が多いのは,彼が青森出身である所為で,青森市には棟方志功記念館がある。第2会場では時々の漫画やアニメなどの画面が取り上げられてゐる。

 

 

 

Table 1 田舎館「田んぼアート」のテーマ [17]

年度 1会場(田舎館村役場庁舎東側の田んぼ) 第2会場(弥生の里)
  1993 - 2001   「岩木山+稲文化のむらいなかだての文字」
   当時は「田んぼアート」の語はなく「稲文字」と呼ばれた。
 
  2002   「岩木山と月と稲穂」  
  2003    レオナルド・ダ・ヴィンチ作「モナ・リザ」  
  2004   棟方志功作「釈迦十大弟子羅睺羅の柵」/「山神妃の柵」  
  2005    東洲斎写楽作「二代大谷鬼次の奴江戸兵衛」/喜多川歌麿作「歌撰恋之部・深く忍恋」  
  2006    俵屋宗達作「風神雷神図」  
  2007   葛飾北斎作「神奈川沖浪裏」/「凱風快晴」  
  2008   「恵比寿様と大黒様」  
  2009   「戦国武将とナポレオン」  
  2010    「弁慶と牛若丸」  
  2011   「竹取物語」  
  2012   「悲母観音と不動明王」   「七福神,マジンガーZ」
  2013    「花魁」/「ハリウッドスター(マリリン・モンロー)」   「ウルトラマン」
  2014    「富士山と羽衣伝説」    「サザエさん」
  2015    映画「風と共に去りぬ」, レット・バトラー & スカーレット・オハラ主演。   「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」.
  2016   TVドラマ「真田丸より, 石田三成と真田昌幸」   「シン・ゴジラ」
  2017    「ヤマタノオロチとスサノオノミコト」    「桃太郎」
  2018   「ローマの休日」, グレゴリー・ペック(ジョー・ブラッドレイ) & オードリー・ヘップバーン(アン王女)。   「手塚治虫キャラクター」
  2019   「おしん」(NHKの連続テレビ小説)   「ガラピコぷ~」
  2020 Covid-19のため中止 (別の行事)
  2021 Covid-19のため中止 (別の行事)
  2022   レオナルド・ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」/田清輝「湖畔」   「縄文から弥生へ」
  2023   棟方志功作「門世の柵」/ヨハネス・フェルメール「真珠の耳飾りの少女」   「ONE PIECE」

 

 

 

2.3 遠近法

第1会場のテーマのうち,先づ,2022年に黒田清輝の「湖畔」と並べて再描画された「モナ・リザ」を見てみよう。Fig.10 に遠近法に則って準備された設計図を示す。

 

 

 

Fig.10 遠近法に即して準備された「モナ・リザ」と「湖畔」の設計図[18]

 

 

Fig.11 は,念のため,これ を Corel Paintshop の遠近補正機能を逆用して正常に戻した結果であって,設計図が正確に作成されてゐたことが証明された。

 

 

 

Fig.11 「モナ・リザ」と「湖畔」の遠近法に即して作成された設計図(Fig.10)から Corel Paintshop の遠近補正を用ひて正常に戻した図(筆者による)。

 

 

 

Fig.12 は村役場屋上デッキから撮られた2022年の稲田の写真であって,「モナ・リザ」は,2003年の場合と異なって,期待通り歪みなく見える。ドローンの普及した今日,上空からの撮影は以前より容易になってはゐるが,村では飽くまでも訪問者に村役場屋上デッキから眺めて貰うことを旨として,遠近法に倣った植付を継続してゐる。

 

 

 

Fig.12 村役場屋上デッキから撮られた 2022年の「モナ・リザ」と「湖畔」の田んぼアート[19]

 

 

2.4 自然のショー

日本の田植では,苗は,水田をグラフ用紙に見立てれば,その縦横25~30cmの間隔の座標点に3~4本づつ植付けられるのが通例で,この方式は田植トラクターで行はれる場合も同じである。田んぼアートの場合には,設計図に従って茅で区分けされたセグメント(小領域)毎に,恰も地図を塗り分けるやうに人の手によって異った色の苗が植付けられる。然るに,実際の田植は,外国からの訪問者を含む数百人の不慣れな老若男女の参加者によって行はれるから,Fig.13 の田植風景の写真を見ると,苗が必ずしも規則正しく配列される訳ではないやうである。

 

 

 

Fig.13 田舎館第1会場における田植風景,2019年[20]

 

 

Fig.14 に,2023年田んぼアートの田植から刈取り後までの変化を,村が設置したライブカメラの画像[21]の抜粋でもって示す。田植直後は殆ど何も見えなかった稲田に,10日ほど経った6月上旬になると輪郭が現れ,7月下旬~8月上旬に絵が完成する。それを過ぎると絵は次第に荒れてゆく。時期が来て稲が刈取られれば,自然のショーは終る。

 

 

20230521.代搔き完了 20230525,茅を刺して区分 20230528,田植え
20230607 20230617,絵が現れる 20230627
20230706 20230717 20230727,絵が略々完成,.
20230806,絵が完成 20230816,雑草が目立つ 20230826,絵が荒くなる

20230905 20230915,雑草除去後 20230930

20230905,周辺刈取り      
Fig.14 2023年田んぼアートの変化(ライブカメラから抜粋)。

 

 

この変化を見て,筆者は60年も昔,デジタル写真が発明される遥か以前,カラー写真が普及する以前の暗室作業を思ひ出した。フィルムの現像は,暗室内の光を全て消して密閉された現像タンクの中で手探りで行ふ。引伸/焼付作業は赤色のセーフライトの下で行ふ。現像済のフィルムを引伸機にセットし,レンズを通してベースボード上の印画紙に数秒露光する。露光した印画紙を現像液に浸すと,白い印画紙に薄っすらと画像が現れ次第に濃くなるので,タイミングを見計らって停止液,次いで定着液に移す。現像液に浸す時間は露光時間に依存するが,凡そ20秒から40秒で,それを越すと画像が必要以上に黒くなる。

 

田んぼアートの場合,田植以降の過程は,水の管理と草取りが行はれる以外,全て自然任せであって,人の介入の余地のない「自然が描く芸術」である。筆者は,田んぼアートを斯く育て上げた村の人たちの工夫と尽力に敬意を払ひたいと思ふ。

 

 

2.5 歴年の田んぼアート

Table 1 に示した第1会場の歴年のテーマから,何点かを選んで,Fig.15 ~ Fig.19 に,原画と並べて示す。

 

 

     

Fig.15 2004年の田んぼアート[22]。棟方志功版画「釈迦十大弟子 羅睺羅(らごら)の柵」[23]と「山神妃(やまのかみひ)の柵」[24]

 

 

    

Fig.16 2007年の田んぼアート[25]。葛飾北斎版画「神奈川沖浪裏」[26]と「凱風快晴」[27]

 

 

    

Fig.17 2009年の田んぼアート「戦国武将とナポレオン」[28],右は Jacques-Louis David「アルプスを越えるボナパルト」[29]。戦国武将は,兜の前立て(徴)から直江兼續に相違ないが,原画不明。

 

 

   

Fig.18 2015年の田んぼアート[30],映画「風と共に去りぬ」 レット・バトラーとスカーレット・オハラの DVD ケース[31]。秀逸!

 

 

     

Fig.19 2018の田んぼアート[32],右は「ローマの休日」 ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)とアン王女(オードリー・ヘプバーン)の DVD ケース[33]。これも一見してそれと分るやうに上手く描かれてゐる。

 

 

2.6 第2会場の田んぼアート

前述のやうに,2012年,「弥生の里」に第2会場が設けられ,エレベーター付きの展望台が建てられた。

 

 

 

Fig.20 弘南鉄道「田んぼアート駅」[34]。背景に展望台が見える。

 

 

今年のテーマは人気アニメ「One Piece」,撮影した写真をFig.21に示す。

 

 

 

Fig.21 第2会場,2023年「One Piece」の田んぼアートの写真(2023/09/28, Nikon Z6)。

  

  

参考までに,過去の第2会場田んぼアートの3点を, Fig.22 ~Fig.24 に示す。

 

 

 

Fig.22 第2会場,2015年度「スターウォーズ」の田んぼアート[35]

 

 

 

Fig.23 第2会場,2018年度「手塚治虫のキャラクター」の田んぼアート[36]

 

 

 

Fig.24 第2会場,2022年度「縄文から弥生へ」の田んぼアート。右側手前には,現代の農夫妻が描かれてゐる。このテーマは,村内で弥生時代に稲作が行はれてゐた史実(前述),この地に有史前から人々が住み続けてきたことをに基づく。写真は弘前経済新聞掲載[37]の左右2枚の写真を合成(合成は筆者による)。

 

 

筆者の視点では,地域の長い歴史を高らかに謳った2022年度の「縄文から弥生へ」が最高作である。

 

他の年度の田んぼアートについては,河北新報の記事[38]ならびに YouTube の動画[39]を参照されたい。

 

 

2.7 石アート

田舎館村には色の異った石の礫で描いた「石アート」なるものがあるのを,現地で初めて知った。場所は第2会場展望台直下,東側の田んぼアートの反対の西側にあって地面の広さは約1.5ヘクタール,今年のテーマは棟方志功であって,笑みを湛えた生前の彼の肖像が,グレースケール画像のやうに描かれてゐた(Fig.25参照)。

 

 

   

Fig.25 棟方志功肖像の石アート。遠方に岩木山を望む(2023/09/28, Nikon Z6)。 右は,原田忠茂氏撮影のポートレート(年次不明)。

 

 

この石アートは2015年に始ったさうで,テーマは常に有名人で毎年更新される由,歴年の人物は以下の通りと伺った。

2015:高倉健,2016:石原裕次郎,2017:ダイアナ妃,2018:美空ひばり,2019:渥美清

(1920~1922年はコロナ禍のため休止)。

 

 

 

3. 田舎館村以外日本各地の田んぼアート

 

田舎館村の田んぼアートが有名になった2010年以降,これを真似る地方自治体が青森県外に続々と現れ,それを実施する母体は20余に至った。田舎館村では,2023年7月31日,これらの団体を招いて青森県平川市文化センターで,「2023全国田んぼアートサミットinいなかだて」を開催した[40]。Fig.26 に参加団体と地図を示す。

 

 

 

Fig.26 「2023全国田んぼアートサミットinいなかだて」への参加団体[41]

 

 

各地の田んぼアートは,各々の地元の天然記念物,時々のイベントなど,テーマは多岐に渡る。本節では,それらの中の幾つかをインターネットから拾って以下に収録する。

 

 

    

Fig.27 兵庫県豊岡市但東町の「コウノトリ」。左:2017年[42],右:2019年[43]。同市は絶滅危惧種である鸛(こうのとり)の保護育成に尽力してゐる。

 

 

 

Fig.28 佐渡・新穂青木の「トキ」,2019年[44]。佐渡では日本で絶滅した朱鷺の番ひを中国から譲り受けて復活させた。

 

 

 

Fig.29 越前市余川町の市指定天然記念物「味真野の桜」(エドヒガンザクラ),2019年[45]

 

 

 

Fig.30 北海道旭川市・JAたいせつ田んぼアート,「夜行性の動物たち」,2017年[46]。エゾフクロウ・ユキヒョウ・オオカミ・エゾシカ・レッサーパンダの5体が描かれた。

 

 

 

Fig.31 上天草市教良木の「イノシシ」,2019年[47]。花札文月(ふみづき)「萩に猪」の札から猪が飛出してゐる。同年(令和元年)の干支は亥。

 

 

 

Fig.32 埼玉県行田市の「ラグビー日本代表」,2019年[48]

 

 

 

Fig.33 埼玉県越谷市の「徳川家康」,2023年[49]。NHK 大河ドラマに因む。

 

 

 

4.アジア諸国の田んぼアート

   

インターネットに依れば,田んぼアートは,日本以外のアジア諸国,就中,台湾,および韓国に加へて遥か彼方のインドでも模倣されてゐる。

  

4.1 中国

遼寧省瀋陽(りょうねいしょうしんよう),黒竜江省富錦(こくりゅうこうしょうふきん),浙江省麗水(せっこうしょうれいすい)などで行われてゐる。3D稲田絵(3D-Rice field painting)と称せられてゐる如く,遠近法の設計図が用いられ,稲の色の種類も多く,芸術性は頗る高い。

  

 

 

Fig.34 中国遼寧省瀋陽の「貴婦人と宮廷」[50],2016年。人物は,唐王朝・玄宗皇帝の妃,楊貴妃(719-756)と想像される。*

  *) 後に,筆者はその貴婦人は楊貴妃ではなく,2015年から2016年に放送されたテレビドラマ「月傳」のヒロインであるミーユエ(月)であることを知ったこのドラマは,秦の始皇帝の曾祖母である戦国時代の宣太后(338?265 BC)の生涯に基づく[50a]

  

  

    

Fig.35 中国遼寧省瀋陽の「千手観音」[51]および「孔子」[52]。年度は何れも2018年。

 

 

   

Fig.36 中国黒竜江省富錦市の「現代農業,龍江先行」[53],2023年?

 

 

 

Fig.37 中国浙江省麗水市の作[54],2019年。中国アニメーション映画「大暴れ孫悟空」,1964,原題「大鬧天宮」の一画面で,右が孫悟空,左が哪吒三太子(田代孝二教授の教示による)。

 

 

4.2 台湾

2019年,南部の屏東(へいとう)市に,屏東農産物観光センターの開設を記念して,田んぼアートが描かれた。絵には地元のランドマークや野生動物,魚などが描かれ,「自信屏東」の文字が書かれてゐる。

  

 

 

Fig.38 台湾南部屏東県の作,2019年[55]。画面に「自信屏東」の文字。

 

 

4.3 韓国

全羅南道に例が見付かった。タイトルは「農作業」に関連するらしいが,筆者は解読不能

  

   

 

Fig.39 韓国南部・順天(Suncheon)の作[56],2020年。

 

 

4.4 インド

インド西部マハラシュトラ州のプネーで,スリカント氏(Mr. Shrikant Ingalhalikar)個人の尽力によって行われてゐる由,2016年に日本の田んぼアートに刺激を受けて始めたと言ふ。テーマは最初がヒンヅー神ガネシャの横になった像,以降は地元の動物や鳥が取上げられてゐる。稲の色は2色で,素朴ではあるが,それなりに趣がある。観覧用に展望台が設けられてゐる。

  

  

 

Fig.40 インド西部マハラシュトラ州,プネーの「ヒンヅー神ガネシャ」,2017年[57]

  

  

   

Fig.41 インド西部マハラシュトラ州,プネーの「黒豹」 2018年(左)[58]と「コノハドリ」 2023年(右)[59]

  

  

5.結言

  

田舎館村の田んぼアートは,「田舎館村むらおこし推進協議会」の一事業ではあるが,その中心は村当局である。筆者は国や地方自治団体の事業で,関係者がこれほど高い誇りと意気を持って行はれてゐる例を他に知らない。

  

テーマの選定について,僭越ながら一案を献じたい。過去2年第1会場のテーマが,2022年がレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」と黒田清輝の「湖畔」,2023は棟方志功作の「門世の柵」とヨハネス・フェルメール「真珠の耳飾りの少女」であったやうに,筆者としては,斯様な"世界の有名アート"と"日本の有名アート"の組合せを第1会場のテーマとして定着させて頂きたいと希ふ。田んぼアートが日本全国はおろかアジア諸国にまで拡まった今,元祖・盟主として高い芸術性を維持して貰ひたい所以である。テーマの選定に当っては,事前に,インターネットを活用して,一般から "世界の有名アート"と"日本の有名アート"の候補を募集し,その幾点かの中から「推進協議会」で決めて頂いては如何かと思ふ。第2会場のテーマについては,成るべく地域に関係するトピックを取上げて貰ひたいと希望する。

  

次回の「田んぼアートサミット」には外国の実施団体/個人も招待されては如何かと思ふ。

  

 

 

 

6.参照文献

[1] https://kahoku.news/articles/20230813khn000003.html

[2] https://ja.wikipedia.org/...

[3] https://kahoku.news/articles/20230813khn000003.html

[4] https://hirosaki.keizai.biz/headline/2192/

[5] 棟方志功「妃神」絵葉書5枚組(京都・便利堂)のうちの1枚より複写。

[6] https://en.wikipedia.org/wiki/Girl_with_a_Pearl_Earring

[7] https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kyoiku/e-bunka/kinen_siseki_12.html

[8] http://den-en-mirai.sakura.ne.jp/www/maibun/index.html

[9] https://kahoku.news/articles/20230813khn000003.html

[10] https://ringomusha.com/kanko/1927

[11] http://blog.livedoor.jp/wkmt/archives/51355906.html

[12] https://kahoku.news/articles/20230813khn000003.html

[13] https://en.wikipedia.org/wiki/Nazca_Lines

多数ある地上絵の中の「スパイダー」と呼ばれるもの。

[14] https://en.wikipedia.org/wiki/Uffington_White_Horse

砕いた石灰岩による。1380~550 BC(鉄器時代~青銅器時代)。

[15] https://en.wikipedia.org/wiki/Cerne_Abbas_Giant

イングランド内戦時代(1642~1651)の作と推定される。 一説に,この人物はオリバー・クロムウェルのパロディであると云ふ。

[16] 食用米 ①つがるロマン」(緑色);古代米 ②単稈紫稲(紫),③黄色稲(黄),④観稲;観賞用稲 ⑤ゆきあそび(白),⑥べにあそび(赤),⑦あかねあそび(橙),⑧紫穂波(紫),⑨赤穂波(赤),➉白穂波(白)。典拠:第1田んぼアート・田舎館村(田舎館村文化会館内)パンフレット。

[17] 田舎館村ホームページ http://www.vill.inakadate.lg.jp/docs/2022022400024/ のデータより作表,同村文化会館で調査修正。

[18] https://www.sankei.com/article/20220727-YKWSDSAJZ5I7JFJCEEZOTOAGVY/photo/AA4DJCYE5RIGXGIVFJG7VQYZMI/

[19] https://kahoku.news/articles/20230813khn000003.html

[20] https://www.marugotoaomori.jp/blog/2019/05/20718.html

[21] http://www.inakadate-tanboart.net/livecam/01-2023.html

[22] http://blog.livedoor.jp/conzaghi/archives/51811384.html

[23] https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/imagelarge/196347/1

[24] 「棟方志功全集」 第8巻 (女人の柵 2), 講談社 1977-79, 図104 を複写。

[25] http://www.uchinome.jp/event/otherevent/event18.html

[26] https://www.rijksmuseum.nl/en/collection/RP-P-1956-733

[27] https://ja.wikipedia.org/wiki/赤富士

[28] https://kahoku.news/articles/20230813khn000003.html

[29] https://en.wikipedia.org/wiki/Napoleon_Crossing_the_Alps

[30] https://kahoku.news/articles/20230813khn000003.html

[31] https://www.amazon.co.jp/Gone-Wind-Scarlett/dp/B0038ZITJ8

[32] https://mainichi.jp/articles/20180711/k00/00e/040/237000c

[33] https://www.amazon.co.jp/Roman-Holiday-DVD-Gregory-Peck/dp/B000059H20

[34] https://ja.wikipedia.org/...

[35] https://hirosaki.keizai.biz/photoflash/438/

[36] https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32920380S8A710C1CC1000/

[37] https://hirosaki.keizai.biz/photoflash/3856/

[38] https://kahoku.news/articles/20230813khn000003.html

[39] https://www.youtube.com/watch?v=FVE-RWJs6rU

[40] http://www.vill.inakadate.lg.jp/docs/2023072000011/

[41] http://www.vill.inakadate.lg.jp/docs/2023072000011/files/summit.pdf

[42] https://mainichi.jp/articles/20170709/k00/00m/040/028000c

[43] https://www.sankei.com/article/20190627-KOLOUDO2XVJDJN2FPQWK3CPDYA/

[44] https://www.hokurikushinkansen-navi.jp/pc/news/article.php?id=NEWS0000020175

[45] https://www.chunichi.co.jp/article/516896

[46] http://www.jataisetu.or.jp/tanbo.html

[47] https://www.asahi.com/articles/photo/AS20190718002104.html

[48] https://www.saitama-np.co.jp/articles/2161/imageList

[49] https://www.tokyo-np.co.jp/article/265217

[50] http://jp.xinhuanet.com/2016-08/24/c_135628173_2.htm

[50a]  https://en.wikipedia.org/wiki/The_Legend_of_Mi_Yue

[51] http://japanese.china.org.cn/travel/txt/2018-07/04/content_54825621.htm

[52] https://www.afpbb.com/articles/-/3179135?pno=3&pid=20241296

[53] https://www.youtube.com/watch?v=iXMn07ZdG2w

[54] http://www.ycmhty.com/news-565029

[55] https://taiwantoday.tw/news.php?unit=36&post=224337

[56] https://www.afpbb.com/articles/-/3309097?pid=22719816

[57] https://www.thebetterindia.com/118492/paddy-art-donje-phata-maharashtra-shrikanth-ingalhalikar-japan-inakadate/ 

[58] https://www.thenationalnews.com/weekend/2023/04/14/panther-in-the-paddy-indian-farmer-adopts-japanese-art-form-in-his-rice-fields/

[59] https://www.thenationalnews.com/weekend/2023/04/14/panther-in-the-paddy-indian-farmer-adopts-japanese-art-form-in-his-rice-fields/

 

 

 

 

 

 

7. 友人からのコメント

 

A professor from Nagoya commented and suggested:

田舎館村の稲アート,面白いですね。はじめて知りました。ちなみに,中国のNo.37は,中国で作られた孫悟空のアニメ映画の一場面です。修業を積んで強くなった孫悟空が天界に上って,天の神々と戦いを繰り広げている場面の一つで,左の男の子は, 哪吒三太子で,右が孫悟空です。孫悟空,中国,アニメで見えると思います。2023/10/20 3:18. (この示唆に従って,本文の「中国」の部分を改訂しました)

The rice art in Inakadate Village is interesting! I have learned this for the first time. For your reference, No. 37 is a scene from a scene of Chinese animation film about Sun Wukong, or the Monkey King, who has obtained strength through training, ascended to the heavenly world and engaged in battle with Prince Ne Zha, the god of heaven. You can find it with keywords, Son Goku; China; animation. 2023/10/20 3:18. (Following this suggestion the part of “China” in the text has been revised)

 

 

A friend from Nagoya replied

The Photo and Essay fascinated me and my wife. Aomori is far from Nogoya.

Seeing is believing, thanking your efforts. 2023/10/20 19:40

 

 

A professor from Switzerland commented:

As always, you stun me! Not only with the choice of your subjects, but also with the clear, careful, educative and entertaining description accompanying them. I just forwarded your link to a gifted Dutch painter, for her pleasure and suggested that she should encourage the infamous Dutch flower producers to "copy" the unique approach. 2023/10/21 1:47

 

 

A doctor from Netherlands replied:

Great that you could make a trip to this fantastic area of Japan! With great admiration, I have been looking at the pictures of the “Rice Field Art” in the city of Inakadate. Incredible and the beauty of those pictures has strengthened my desire to come back to Japan, even when I do not have business there. 2023/10/21 3:16

 

 

A professor from Kyoto commented:

趣味の旅と写真に、テーマを設定し調査されて,その結果をまとめられておられますね。感服しました。 田んぼアートは日本特有の「移ろう美しさ」の伝統を受け継ぐものでしょうが,時を追うごとに情景が変わる時系列が面白く, 最近時々見かける時系列ビデオのような作品ができればより興味が増すかと思いますが,半年をかけてビデオを撮り続けるのは不可能ですね。 市民ホール屋上に定点観測ビデオでも設置できれば良いのでしょうが。2023/10/22 11:24.

You've set up a theme for your hobby of travel and photography, investigated and written the results. I was quite impressed. The rice field art probably inherits Japan's unique tradition of “transitional beauty”. The chronological sequence of scenes that changed over time would be even more interesting, were it recorded on a video that we often see these days, but it would be difficult to continue shooting for six months unless otherwise a fixed point camera were installed atop the roof of the village hall. 2023/10/22 11:24.

 

 

A professor from London wrote:

So pleased to hear from you and to read of your exploits in the far north of Japan. One day we hope to be back there. (2023/10/22 18:53)

 

 

A lady professor from Bandung, Indonesia wrote:

Thank you so much for sending me your new article about the Rice Field Art in Inakadate Village. I found that this art is very special and unique. You are lucky to have the opportunity to go there and to see the beautiful natural scenery. You have written a very good and complete article as usual. Amazing... Congratulations Toshi! 2023/10/23 23:59.

 

 

A brother-in-law from Hikone, Japan, replied:

田んぼアート 見事なものですね。2023/10/29 10:50.

Rice field art is amazing! 2023/10/29 10:50.

 

 

A professor from Netherlands commented:

I have enjoyed reading the article about the rice field art. Also, the techniques that goes into planting the crops in exactly the right order to obtain such beautiful organic paintings.  2023/10/30 20:34.

 

 

A couple from Tochigi Prefecture, Japan wrote:

田んぼアートの資料には感動です。旅の目的があって,それをテーマに学ばれる姿に心から尊敬いたします。だからこそ旅はおもしろいんだろうなと改めて思いました。私も見習います。2023/11/06. Xmas card.

I am impressed by your document on the rice field art. I sincerely respect the way that you have a purpose for your trip and learn on that theme. I have realised that this is why traveling is so interesting. I'll follow suit too. 2023/11/06. Xmas card.

 

 

A doctor from Netherlands commented:

What energy, intelligence and willpower goes into this landscape art! Especially considering that each project is only viewable for part of one year. Very impressive! 2023/11/06 18:58.