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盛岡淳子の水彩畫

     

イントロダクション

     

60代半ばにおける藝術的才能の突然の發露 

(筆者識)

     

最近の近江旅行(2023年5月)は,亡妻の兩親の佛壇に詣で,その足で周辺の神社佛閣や史跡を巡るのが豫定であったが,12年振りに會った義弟と彼の妻から聞いた尋常でない話に驚かされた。

     

最初の晩の夕食の席で,彼らは妻の淳子の繪が,昨年と今年,東京都美術館に展示され,何れの年に於いてもさる美術協会から表彰されたことを,山盛りの魚と,一匹の口を開けた魚が描かれた画像をスマートフォンで見せながら話した。私は「淳子さんが畫家だとは知らなかった。繪を描くことは貴女の長年の趣味であったの?」と問ふた。 彼女は「いえ,子供の頃に學校の美術の授業で繪を描いて以來,繪を描いたことはなかった。數年前,ふと街の絵畫教室の扉を叩いたとき,繪を描きたいと思ったの。」と答えた。畫像の繪は強い筆致で描かれてゐたので,一見油繪に見へたが,淳子は水彩畫であると曰ふた。

     

淳子が月に二度通う繪畫教室は,日本美術家連盟会員で光陽会委員である小田柿寿郎氏が主宰する「小田柿美術教室」である。恐らく彼は,誕生以来六十數年間隠れてゐた淳子の潜在的才能を見抜いたに相違なく,新入りの門下生を励ました。五年目の2022年,彼が,淳子に「群」と題する作品を「第70回記念光陽展(2022)」に出展するよう促したところ,その作は,「小品新人秀作賞」に満票で選ばれた。翌年の作「釣果」は,「第71光陽展」で「小品会友奨励賞」を獲得した。同じメンバーが複數年繼續して賞を受けるのは例外的とのことである。

     

翌日盛岡の家で見た元の繪は迫眞的で,ダイナミック且つユニークなものであった。彼女が描いた魚は,夫君が趣味で若狭湾に行って釣ってきたものださうだ。淳子の集中力には彼も感心してゐる。彼女は,庭の手入れに若干の時間を割かなければならない晴れた日よりも、繪を描くこと以外に仕事がない雨の日が好きだと言ふ。夜は,人工光線の下では色調が異って見へるので繪描きはしないそうである。

     

2点の受賞作の畫像を Fig. 1 および Fig.2 に示す(これらを含む全ての寫眞は,筆者によって Nikon Z6/ NIKKOR Z 24-200mm f/4-6.3 VR を用いて撮影された)。Fig. 3 は, 第71回光陽展会場(東京上野・東京都美術館)にて撮影されたスナップ。

   

   

 

Fig.1 群, 2021年6月, サイズ F8

第70回記念光陽展/小品新人秀作賞

Fig.2 釣果, 2022年4月, サイズ F8

第71回光陽展/小品会友奨励賞

    

      

Fig. 3 盛岡淳子, 第71回光陽展, 2022年4月2日, 東京上野・東京都美術館にて。

パネルの人物右上下の「紙風船」および「群」は淳子の作。