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三輪途道女史-信仰の彫刻家・画家-について

井口正俊博士による簡単な紹介

  

  

       

(仏像)

 三輪途道女史(1966生)によって彫刻され,奈良東大寺に奉納された「菩提僊那像」の写真に出逢ったのは十年ほど前,「社寺の守護神」と題する記事を書いていたときのことで,彼女に連絡を取って,その写真を転載する許可を頂きました(http://www.maiguch.sakura.ne.jpに掲載)。彼女に依れば,その美しい彫像は,1990年代後半に,古い時代に描かれた絵画を参考にして該僧侶の立体像を想ひ描いて制作された由でありました。それを遡る1994年,彼女は東京藝術大学で修士号を取得するために,同寺院で俊乗房重源上人坐像の模刻に従事されました。

   

Figure 1
左:四聖御影(1377 AD)。左から右へ:両弁牧師,聖武天皇,菩提庵牧師,行基牧師。複製元:東武博物館「東大寺の至宝」,朝日新聞社 1999。右:菩提僊那像,三輪途道女史製作 2002, http://michiyo-miwa.jimdo.com/. 作者の了承を得て複写。

  

   

Figure 2
東大寺俊乗堂北にて重源上人坐像の模刻に勤しむ上原三千代(三輪途道)女史。1990年代初期。https://www.michiyomiwa.com/%E4%BB%8F%E5%83%8F-%E3%83%91%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF より複写。

  

   

(レパートリー)

彼女のウェブサイト:
    https://michiyo-miwa.jimdofree.com/ およびhttps://www.michiyomiwa.com/

に示されている展示会ならびに添付写真のリストから分るように,彼女のレパートリーは仏像から肖像画,動物,身近なものまで多岐に亙りますが,彼女は常に外見のみならず,人や動物の心や魂,更には,物体の内部にも拘ってをられます。彼女は野菜や静物にさへも魂の存在を想定し,それらの声を聞かうとされてゐます。私は,三輪女史を,端的に「信仰の彫刻家・画家」と描写したいと思ひます。

  

    

(展示会)

2021年9月,私は招待を受けて,彼女に会ふべく,下記の展示会に出向きました。
    題名:「三輪洸旗*&途道展:富岡から世界を紡ぐ」,
    2021年9月11日〜11月7日,富岡市立美術館で開催。
     (*洸旗氏は途道女史の夫であり,芸術家でもある。)

     

 参考までに,該美術館はユネスコ世界文化遺産登録の「富岡製紙場」,明治政府が1872年に建設した近代的機械を備えた日本初の絹糸紡績工場から左程遠からぬ場所にあります。   

 

 

(蚕神猫)

主な展示品のひとつは,蚕を鼠から守ることをイメージして作られた三輪女史の最近作「蚕神猫」でありました。三輪女史の作品は通常,一点数千ドル以上の高額で取引されてゐますが,今回は「蚕神猫だるま」と呼ばれる類似の塑像を用意し,限定数のレプリカを登録メンバーに手頃な価格で提供されました。

 

 

Figure 3
「蚕神猫」と「蚕」の像,三輪途道作, 2021年。富岡美術館に展示。写真は筆者撮影(2021年9月26日)。

  

     

  

Figure 4
三輪途道による「蚕神猫だるま」のレプリカ,2021年,登録メンバーに頒布するために準備されたときのもの。富岡美術館にて筆者撮影(2021年9月26日)。

  

   

(成型)

彼女に依れば,「蚕神猫」の元の像は粘土で造られた塑像であって,嘗て仏像制作のために伝統的に使はれたと同じ麻繊維とウルシの混合物でもって,現代的シリコーン抜型を用いて,中空の形に複製されました。「蚕神猫だるま」も同様のプロセスでに作られましたが,レプリカに用ひられた材料は紙塑でありました。後者の場合,全品,コーティングは手作業でなされ,黒い斑点,顔の要素,文字が手作業で描かれてゐるので,外観は一点毎に異なります。

   

  

(新著『祈りのかたち』)

「蚕神猫だるま」は,上毛新聞社から出版された「祈りのかたち」といふタイトルの新著(2021年9月10日刊,ISBN-13: 978-4863522923)を併せてメンバーに配布されました。

   

     

Figure 5
三輪道代著書『祈りのかたち』,上毛新聞社,2021年9月10日発行,ISBN-13:978-4863522923)。

     

(彫刻家にして哲学者であり文筆家)

この著は,三輪女史が才能ある彫刻家・画家であるのみならず,敬虔な哲学者であり,優れた文筆家でもあることを証明しています。このことは,多くの芸術家が作品や背景の説明を評論家やプロの物書きに任せる傾向にあるのと対照的であります。

  

三輪女史が三十代から患ってをられるロー・ビジョン(視覚障害)が悪化しつつあるのは非常に残念ですが,彼女はこの病を神の試練として受け止め,生命への強い意志を維持されてゐます。

  

   

添付文書「養蚕の神」は,上記の書『祈りのかたち』の中の一章の英訳であります。目次の全リストを以下に示します。

   

祈りの形:目次
(1) 榛名神社随神像
      [つぶやき] 随神像の修理
(2) 山王廃寺塑像
      [つぶやき] 悟りと飾り
(3) 十一面観音
      [つぶやき] 破片からのメッセージ
(4) 小金銅仏
      [つぶやき] 渡来人と辛科神社
(5) 社寺彫刻
      [つぶやき] 職人けんちゃんの話
(6) 宮田不動と奪衣婆
      [つぶやき] 手は眼だ!
(7) 養蚕の神様
      [つぶやき] 蚕神猫を作りました/養蚕の神様の秘密
(8) 白衣大観音
      [つぶやき] 白衣観音物語
       (註:番号は便宜のために付加。)

  

    

   

2022年1月

工学博士 井口正俊
東京都練馬区在住
Eメール: maiguch@gmail.com
ウェブサイト: http://www.maiguch.sakura.ne.jp  

  

   

追記: 本ウェブサイトには,「養蚕の神」の日本語原文は含まれない。御興味ある方は,原著をお読み頂きたい。

     三輪道代著書『祈りのかたち』,上毛新聞社,2021年9月10日発行,ISBN-13:978-4863522923

     入手先(例えば): https://www.amazon.co.jp/祈りのかたち-三輪-途道/dp/4863522924/