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Thomas hardy, Life’s little ironies: A set of tales with some colloquial sketches entitled A few crusted characters, With a map of Wessex, Macmillan and Co., London 1925 (First Collected Edition 1894).

妻を喜ばすために － イントロダクション

愚生が1957年4月から1961年3月まで學部教育を受けた名古屋工業大学は，第二次世界大戰後，舊・名古屋工業専門學校を基に教育改革法に基づいて創設された，いわゆる新制度大學のひとつで，當時は教官も施設も未だ満足にほど遠いものでした。退屈な授業の中の例外の一つは，綱島康煕教授の英語の講義であって，彼は自信と情熱を持って，トーマス・ハーディの『妻を喜ばせるために』（1891）について教へ，文章の解釋だけでなく，この偉大な作家の經歴と，『ダーバヴィル家のテス』を含む他の作品についても話して下さいました。この作品は高校の教科書に斷片的に含まれてゐたサマセット・モームやロバート・ルイス・スティーブンソンなどの他の英語の小説と比較して，非常に難しかったことを覺へてゐます。綱島康煕教授の「トーマス・ハーディとメルストック合唱隊」 [1] と題する論文を最近見付けて懐かしく拜讀，ハーディの著作のみならず生涯についても書かれてゐて，60年遅れの復習をさせて頂きました。

最近，愚生は，それらの小説をもう一度讀むための時間を割かうとしてゐます。To Please His Wife は，その後60年間英語を使ひ，その間にイギリスに住み，そこを訪れた經驗から，情景や風景はかなり容易に想像できはしましたが，それでも讀むのは苦勞でした。To Please His Wife は, 1920年代以来，數人の英文學者によって日本語に翻譯されてきましたが [2] ，この「文學精讀」の翻譯は私自身が行ったものです。譯文はかなりぎこちなくありますが，敢へて直譯的に留められてゐます。以前になされた翻譯は過度に意譯されてゐるやうに見えました。

英語のテキストは，下記の書（１）から採りました。後に出版された書，例へば（２），の中で變更，追加または削除された單語や句は，「文末註」に記しました。

(1)

Thomas hardy, Life’s little ironies: A set of tales with some colloquial sketches entitled A few crusted characters, With a map of Wessex, Macmillan and Co., London 1925 (First Collected Edition 1894), p.125-148.

(2)

Thomas Hardy, The Wessex Edition: The Works of Thomas Hardy in Prose and Verse with Preface and Notes: Volume VIII: Life’s Little Ironies: A Set of Tales with some Colloquial Sketches entitled A Few Crusted Characters, London; Macmillan & Co, 2nd impression, 1920).

2020年１２月